
日本全国どの県どの街にも、その地方の人々が昼夜を問わず参集する場所がある。東京なら新宿、大阪なら梅田、博多なら天神中州がそれにあたる。
鹿児島にそのような場所があるのかと問われれば、十人中十人とも「それは天文館」と答えるだろう。核店舗の郊外移転がすすみ三越が撤退し、空き店舗が目立つようになった今でも、天文館が鹿児島の文化の中心であることは間違いない。
鹿児島中央駅から市電に乗り、北へ四つ目の電停が天文館、天文館本通りの左右に天文館G3が貫き、その周辺に放射状にアーケード街やカラー舗装された通りが迷路の如く連なっている。アーケード街には、古くからの個人経営の商店に混じり、ブティック、カフェなど洒落た店が立ち並び、またパチンコホールや無数の飲食店が軒を連ね、昼夜・年中を問わず多くの人で賑わう繁華街となっている。またその先の細い路地裏は、赤い灯青い灯が明滅する歓楽街となっていて夜ともなると仕事帰りのサラリーマンでごったがえす。

はて天文館はどこからどこまでを指すのだろう。聞かれて返ってくる言葉はまちまちである。「山形屋、市役所のあたりまで」という人もいれば「パース通りから北」と答える人もいる。それぞれが持っている天文館像は異なるようだ。もちろん厳密な区画などありはしない。鹿児島県民が心躍らすハレの場所、それがテンモンカンである。
通りでいえば次の通りが天文館と言えるかも知れない。これはあくまで私の推測である。
いづろ通り・照国表参道通り・天文館通り・天文館本通り・天文館電車通り・天文館G3アーケード・にぎわい通り・はいから通り・中町コアモール・中町本通り・中町ベルク・ぴらもーる(天神おつきや商店街)・金生通り・納屋通り、以上アーケード通り
テンパーク通り・ゴンザ通り・七味小路通り・セピア通り・グルメ通り・おつきや東通り・天文館一丁目商店街・呉服町通り、以上お買物通り
文化通り・中町別院通り・中町中通り・中町御堂筋通・銀座通り・松山通り・船津町通り・松原本通り・天文館文化通り・萩原通り・二本松馬場通り・山之口町中通り・山之口本通り・二官橋通り・樋之口本通り・山之口電車通り・高見馬場通り・山之口本通り・二官通り、以上歓楽街。


数あるラーメン店の中でマイナーな一店を紹介しよう。
今から40年前、すでにこの「のり一」はあった、この写真のままの姿で。40年前の私は若者だった。そして
「そもそもの初め、のり一は五拾円だったのだ!」嗚呼、この厳然たる事実。
40年前、百円札を握り締めこの暖簾を潜ったあの日から、私はず〜〜とのり一のフアンだった。透明なスープの旨み、堅からずやわらかからずシコシコと腰のあるつるつる麺、そしてなによりも食べた後満腹にほど遠い不足感。
私は思い出す。20円の電車賃を惜しんで唐湊から天文館まで歩いたこと、のり一のラーメンを食って歩いて帰ったこと。爾来のり一は私の太陽だった。
私は知っている、この華繁な町で市価の半分で看板を維持することが如何に困難であるかを。故にこれまでの値上げにおおいなる理解を示してきた。百円になった時も。二百円になった時も。
そしていつものり一は「安くで空腹を満たしている」どこか申し訳ない顔をしたお客でいっぱいだった。真ん中に仁王立ちのおぢいさんが、鼻をずーずー啜るのにも誰も文句をつけなかった。なぜなら「有り難い」思いがあったから。今真ん中に立つあの若者はあのおぢいさんの孫だろうか。アア、それなのにそれなのに…再度の値上げ!
天文館ラーメンの名店に名を連ねることもなく、ひっそりと馬齢を重ねた「のり一」よ。心あるひそかなフアンは泣いているぞ。せめて300円に戻してくれ。私はその心意気に100円をカンパする。

ついでにのり一から歩いて1分の
「サンデイズイン鹿児島」。天文館のど真ん中にあるこの高層ホテルは外観に比して手頃である。この便利さと格安感は捨てがたい。実は私はこのホテルのタワー駐車場で働いていたことがある。そのかすかなご縁でここに紹介する。袖の下があるわけではない。
天文館周辺地図
